残業代ゼロ・時間規制廃止提案に対する警戒を呼びかける

日本労働弁護団が4月30日付で「残業代ゼロ・時間規制廃止提案に対する警戒を呼びかける 」と題した声明を発表しました。

私は経営側に立つ人々と話す機会が多くあります。その中で、「クリエイティブな仕事は、労働時間ではなく、成果で測るべき」という意見を聞くことがあります。しかし、そうであれば、一切の時間管理や勤務場所拘束を解除すべきでしょう。まったくオフィスに来なくてもいい、決められた納期に成果物を納品する考えです。また、現在の労働基準法の中でも、専門職の裁量みなし時間制など例外的な定めもあります。しかし、そうした経営者の話を聞いていると、労働者の管理拘束を前提としながら、都合よく成果主義を主張する、すなわち単に人件費を削減したいだけです。
実際に企業においては個人単位で成果を計測できない仕事の方が多いのが実状でしょう。チームプレイ型の業務も多いし、バックヤードの仕事も多い。
そして私たちのもとには長時間労働を強いられて職場で倒れたり、精神疾患を発症する人たちが多く相談に来ています。この実態をみれば、必要なのは労働時間を規制することでしょう。労働時間規制をせずに、カネだけ払わないというのは、まったくムシがいい話でしょう。



残業代ゼロ・時間規制廃止提案に対する警戒を呼びかける

2014年4月30日

日本労働弁護団 会長 鵜飼良昭

 本年4月22日開催の経済財政諮問会議産業競争力会議合同会議において、長谷川閑史産業競争力会議雇用・人材分科会主査作成の「個人と企業の成長のための新たな働き方〜多様で柔軟性ある労働時間制度・透明性ある雇用関係の実現に向けて〜」により、「個人の意欲と能力を最大限に活用するための新たな労働時間制度」が提案された。

 提案の挙げる「Aタイプ(労働時間上限要件型)」は収入にかかわらず、「職務経験が浅い」者、「随時の受注に応じて期日までに履行する業務に従事する」者等、極一部の労働者を除いて労使で自由に対象者を設定できるものであり、ホワイトカラー層を中心に、広範な労働者が容易に対象とされうる。さらに、Aタイプの労働時間の上限を、労基法の定める基準を超えて、労使合意により「柔軟」に設定することを可能にする。また、「Bタイプ(高収入・ハイパフォーマー型)」にあっては、収入要件(その下限すら法律の条項として規定されず、省令等により国会の審議なく下げられる可能性をはらんでいる)さえクリアすれば、労働時間の上限が一切設けられない。

提案はAタイプにあっては、「年間労働時間の量的上限等については、国が一定の基準を示す」「強制休業日数」を定めるとするが、1日、1週単位での際限なき長時間労働については手当がなく、強制休業日数が遵守されなかった場合の刑事処罰などの効果については何ら言及がない。Bタイプに至っては、導入企業は「利用者の就労状況を把握し・・・健康管理に活用する」ほか、なんの拘束も受けない。いずれの類型についても、労働者の休む時間を確保する措置がおよそ欠如していると言うほかない。

提案は、新たな労働時間制度の適用を、労働者の同意にかからせているとするが、労使の交渉力格差がある中で、使用者から制度の適用を迫られた労働者がこれを拒否することは事実上不可能に近い。結局、提案は広範な労働者を対象に、労働基準法所定の1日8時間、1週40時間、週休1日の労働時間の上限を緩和ないし撤廃し、長時間労働に対する直接的規制をなくすとともに、「時間外労働」「深夜労働」「残業代」などという概念そのものをなくし、長時間労働に従事させた労働者に対する労基法で義務づけられている賃金の支払いを免除するものである。それは、2007年に「残業代ゼロ法案」「過労死促進法案」として世論の批判を浴び葬り去られたホワイトカラーエグゼンプションの再来であるどころか、それよりもさらに労働者の長時間労働に対する保護を後退させる最悪の「残業代ゼロ」「過労死促進」提案にほかならない。

 労働基準法の定める労働時間規制は、長時間過重労働から労働者を守る最低基準であり、最後の砦である。同法のもとですら労働者は、産業、業種、職種、雇用形態を問わず、長時間かつ過重な労働にさらされているが、「新しい労働時間制度」は、労働時間の最低基準を画する労基法を無視し、長時間労働傾向をさらに悪化させる重大な危険を有するものである。それは、労働者の健康も破壊し、個人と企業の健全な成長も阻害して、ひいては日本の社会と経済に重大な害悪を生じさせるものである。

 日本労働弁護団は、産業競争力会議経済財政諮問会議等による恐ろしい残業代ゼロ・時間規制提案について、広く警戒を呼びかけるものである。

以上