団体交渉はただテーブルにつけばいいのではない

1、昨今のリストラとリコー事件の経過

東京管理職ユニオンは、1993年の結成以来、中高年リストラと対峙してきました。中小企業では依然として解雇が頻発していますが、大企業では時代ごとに新手の退職勧奨を編み出し、リストラを推し進めています。リコー事件は、2009年末のリーマンショック以後に頻発している「追い出し部屋」型の陰湿なリストラの典型例です。

財界・経営法曹・経営コンサルタントの一部は、日本における解雇法理の制約を嫌い、人事権を悪用し、自らの経営責任を取ることもなく、退職勧奨型のリストラを仕掛けてきました。以前の方式は、「あなたは無能である」として、降格降級・賃金ダウンを伴った「窓際」への異動でした。しかし近年の方式は、いったんは賃金条件を下げることなく、「あなたのため」と説明し、出向・配転の業務命令を発します。その後、それまでのキャリアとギャップがある業務であるにもかかわらず、過大あるいは過小な業務改善計画を設定(PIP)され、低く人事考課され、ジリジリと労働条件が切り下げられるという狡猾なやり口です。

リコーでも長年にわたって会社に貢献し、評価されてきた従業員を、合理的な理由もなく、恣意的にターゲットにして、執拗に退職勧奨を繰り返しました。そして拒否した従業委員に対しては、キャリアに見合わない肉体労働や単純労働の現場に出向・配転させ、心を折ろうとしました。そして今も、組合員らは肉体労働・単純労働現場故に閉じ込められ、いくら頑張っても目標達成できない理不尽な人事考課に苦しめられています。

東京管理職ユニオンは、このような出向・配転は、労働契約法14条が定める要件等を満たさず無効であると判断し、原職復帰を求めて団体交渉を重ねてきました。しかし、リコーは代理人弁護士(石嵜・山中総合法律事務所)と一体になって、団体交渉において客観的な根拠を一切示さず、ユニオンとの合意形成努力を怠り、出向・配転は人権の範囲内で有効であるとの持論に固執し、不誠実な対応を繰り返しました。これに対してユニオンは2012年2月8日に東京都労働委員会に不当労働行為救済申立を行ったものです。


2、リコー事件勝利命令の主文

 東京都労働委員会が交付した命令の主文は以下のとおりです。

1 被申立人株式会社リコーは、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人東京管理職ユニオンに交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートル×80セントメートル(新聞紙2頁大)の大きさの白紙に、楷書で明瞭に墨書して、会社本社内の従業員の見やすい場所に、10日間掲示しなければならない。

     記

     年     月   日

東京管理職ユニオン
執行委員長 鈴木 剛 殿 

                    株式会社 リコー
                    代表取締役 三浦 善司

 当社が、平成23年10月14日、11月24日及び12月26日に行われた貴組合との「人選理由と過去の人事考課の開示」、「事業再編に関する説明」及び「希望退職者の応募結果の開示」を協議事項とする団体交渉において、誠実に対応しなかったことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないように留意します。
 (注:年月日は文書を交付又は掲示した日を掲載すること)

2 被申立人会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会で文書で報告しなければならない。

3 その余の申し立てを棄却する。
 
 リコーは、団体交渉で提出しなかった資料を裁判で提出するなど、ユニオンとの団体交渉を軽視する態度を示しました。その裁判において出向無効が示されたことを考えれば、本件命令の通りに団体交渉が誠実になされていれば、早期解決を勝ち取ることも可能だったと考えられます。

 なお、陳謝文(ポストノーティス)が命令で出されるケースは決して多くなく、リコーの対応がいかに悪質であったかということを示したものです。リコーは命令を不服として中央労働委員会に再審査の申し立てをしましたが、地方労働委員会の命令は労働組合法第27条の15により効力を失わないため、命令を履行しなければなりません。


3、リコー事件勝利命令の意義

 東京都労働委員会は、本件命令書において、誠実交渉義務について以下のように原則を示しています。

 使用者は、自己の主張を相手側が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たらなければならず、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどし、また、結局において労働組合の要求に対し譲歩することができないとしても、その論拠を示して反論するなどの努力をすべき必要があるのであって、合意を求める労働組合の努力に対しては、このような誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する必要がある。(19頁)

 ユニオンとの団体交渉において、単に話を聞くだけのような不誠実な態度に終始する経営は後を絶ちません。これは上記の誠実交渉義務に反するものです。また弁護士がミスリードし、団体交渉を事実上忌避し、戦術的に裁判や労働審判に移行させる傾向も強まっています。中には債務不存在訴訟や嫌がらせの損賠訴訟(スラップ訴訟)を打ってくる事件も多発しています。これに対してユニオンは、毅然として、こうした経営側の態度を許すことなく、まさに本件勝利命令にある誠実交渉義務を前面に掲げ、団体交渉を実効化させなければなりません。

 冒頭に述べた経営側による新手のリストラと対峙し、これを打ち砕くためには、また団結した組合員の要求を勝ち取るためには、ますます団体交渉において緻密に経営側の論理矛盾を明らかにする必要があります。そのためにも、ユニオンみえの鈴鹿さくら病院裁判(3面参照)で明確にされたストライキ権等の団体行動権を行使することと並び、団体交渉権を適切に発動し、闘ってゆかなければなりません。本件勝利命令は、リコー闘争の勝利に向けて前進するものであり、あらゆる要求闘争にとって武器となるものです。